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仙台高等裁判所 昭和40年(ネ)52号 判決 1966年4月13日

控訴人 旭自動車工業株式会社

被控訴人 酒井丑蔵

被控訴人側補助参加人 国

訴訟代理人 青木康 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

被控訴人の主位的請求に対する当裁判所の判断は原審の判断と同一であるから、原判決理由中主位的請求についてと題する部分をここに引用する。

次に被控訴人の予備的請求について判断する。

被控訴人が昭和二四年一〇月二日、国から自作農創設特別措置法第一六条の規定により本件土地の売渡を受けて以来現在に至るまでこれを占有していることは、当事者間に争がない。

<証拠省略>の結果によれば、被控訴人は国から本件土地の売渡を受けた昭和二四年当時は、本件土地を訴外長沢敬一より賃借していたものであること、及び本件土地の売渡については、福島県知事作成の適法な売渡通知書の交付を受けたものであつて、右通知書には、国が本件土地を長沢敬一から自作農創設特別措置法の規定に基いて買収し、これを被控訴人に対して売渡す趣旨の記載の存することが認められる。而して本件のごとく、自作農創設特別措置法に基いて私人が国から行政処分の一環として農地の売渡を受けるがごとき場合にあつては、その行為の性質上、通常買主として守るべき注意義務は、一般の私人間の不動産の売買契約における買主の注意義務とは異なり、必ずしも目的物件の権利関係の登記法上の公示の有無の調査のごときはこれを必要とせず、寧ろ行政処分自体が適法且つ正当であることを、自己の知りえた範囲内の事情に基いて確かめることをもつて充分と解すべきである。してみれば前記認定事実に基けば、被控訴人は本件土地の占有の開始にあたり、自己に権利が帰属するに至つたと信ずるにつき過失がなかつたと解するのが相当である。

次に控訴代理人は、昭和三三年七月頃、被控訴人は、控訴人代表者若月定之助に対し本件土地の所有権が控訴人に属することを承認したと主張するが、<証拠省略>に照し措信しがたく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

そして被控訴人の本件土地に対する昭和二四年一〇月二日以降の占有は、所有の意思をもつて、平穏、公然、且つ善意であつたと推定すべきであるから、被控訴人は、右昭和二四年一〇月二日から一〇年を経過した昭和三四年一〇月二日の到来と共に時効によつて本件土地の所有権を取得したものである。

控訴人は昭和三九年三月一七日答弁書を以て本件土地が控訴人所有であることを主張して裁判上の請求をなしたから、時効が中断されたと主張するが、右は時効完成後の中断の主張となり、採用できない。

してみれば被控訴人の予備的請求は理由があり、これを認容した原判決は正当で本件控訴は理由がない。

よつて、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従つて主文のとおり判決する。

(裁判官 新妻太郎 須藤貢 小木会競)

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